■ウタカゼミニノベル『風に運ばれて』

作:佐久間祐実

 僕達コビット族が見上げても樹のてっぺんが見えない程大きな歌風の龍樹が、ゆらゆらと揺れている。それを囲むように青々とした牧草が広がっていて、その一角にはウサギ厩舎が並んでいて……
「アルフ!」
 僕の頭の中に描かれていた風景はその声で一瞬にして消え去り、頭の中が真っ白になった。
「もう! 今日はソフィーの毛づくろいをしてあげるって約束したじゃない!」
 その声がだんだんと強くなって、ぼくはゆっくりと目を開けた。
 すると目の前にリアの顔があって、思わず後ろにのけぞる。
「わ、ちょっと、近いよ」
「なかなか起きないから近くで呼んであげてるの。早く支度してね、先に行ってるから」
 リアはぼくの言葉を聞いていないみたいで、せかせかと家を出て行ってしまった。
 そうだ。今日はぼくとリアがソフィーのおせわをしてあげる日だ。慌てて布団を剥ぎ取ったけれど、家の中はとっても寒い。
 思わず布団をかぶり直したら、
「アルフ!」
 怒ったリアの声が聞こえた。
「今行くー!」
 びっくりしながらも木の靴を穿いて、いつも着ている緑のセーターに着替える。そうして家を飛び出すと、家の前で待っていたリアが腕を組んでぼくを見た。
「それ、寝る時のズボンじゃないの?」
「あ」
「もういい! 行くよ!」
 リアはふんっと鼻を鳴らしてさっさと歩き出した。ぼくもその後をせかせかと追いかける。
 このウサギ厩舎にはコビット族が二十人くらいが働いている。みんな、ウサギが大好きだ。いつも楽しそうにウサギの世話をしている。さっきまで見ていたのは夢の中のウサギ厩舎だったけれど、夢に見ちゃうくらいには僕はこのウサギ厩舎が好きだ。
 でも怒った時のリアはとってもしつこくて、なんだかどうでもいいことばかり言ってくる。その薄緑の髪が好きになれないとか、なんとか。
 そんな話を聞いていたらいつの間にかソフィーの厩舎の前に着いたけれど、
「何回言えばアルフは寝坊しなくなるの?」
 リアはまだそんなことを言っていた。
「……ねえ、ソフィーが怯えてるよ」
 話が終わりそうになかったので厩舎の中のソフィーを指差して言うと、リアは慌てたように金色の髪を揺らして話すのをやめた。
 ソフィーはぼくたちよりも大きなウサギで、どんな時でも一緒だ。外へ出かける時も、野菜を収穫する時も手伝ってくれる。真っ白な体と茶色い耳が特徴的で、瞳はぼくと同じ柔らかいピンク色をしているはずなんだけれど、今日はなんだか紫色に見える。それどころか厩舎に入ったままで、僕たちに寄って来ようとしなかった。顔だけがひょっこりと出ている。
「どうしたの? 今日はそんなに寒くないよ」
 リアが言いながら歩み寄っても、出てくる様子がない。むしろ体を押し込むように厩舎の奥へ下がっていく。だんだんとソフィーの顔に影が落ちていった。
「そうだよソフィー、おいで?」
 耐え切れなくなったぼくもリアと一緒に厩舎の入口へ近付く。それでもソフィーは奥へ奥へと入って行き、やがてその体が全て影で覆われた。
 すると、ソフィーが突然小さな唸り声を上げ始めた。ぼくもリアも聞いたことがないような、低い鳴き声。
 ぼくはすぐに足を止めた。リアも疑問に思ってぴたりと足を止める。でもリアは、
「ソフィー?」
 少し首をかしげただけですぐにソフィーへ近付いていった。そうしてリアの体も影に覆われて見えなくなる。
 その瞬間、ソフィーの影が大きく動いた。
「リア!」
 咄嗟に叫んでリアへ駆ける。けれど、その奥からすごい勢いで飛んできたソフィーに阻まれてしまった。そうしてごう、と聞いたことのない風を切る音がしたと思ったら、リアもぼくも厩舎から押し出されていた
「ソフィー!」
 ごろごろと転がりながらもリアが叫ぶ。ぼくは何とか地面に足を着いて叫んだ。
「ソフィー待って!」
 精一杯叫んだその声がソフィーには届いたのか、ぱたぱたと逃げていくのを一瞬止めてこちらを振り向く。小さくて、丸くて、紅い瞳がぼくを捉えた。怯えているような、興奮しているような、紅い瞳が。
「アルフ、追いかけて!」
 壁にぶつかって止まったリアがそう言い放つ。けれど、それはただ頭に響くだけでぼくの体は動かなかった。
 すると、
「どうしたアルフ、リア!」
「今のってソフィー?」
 厩舎で働く人たちも慌てて飛び出してきた。本当はもっと早く来てソフィーを止めてほしかったけれど、誰だって予想もつかないことはとっても怖い。ましてやウサギのソフィーが、この厩舎から逃げ出していくなんて、初めてのことなんだ。
「ねえアルフ、どうしたの? ソフィーはどこへ行ったの?」
「リア、怪我していない? アルフも大丈夫?」
「ソフィーはあっちの茂みのほうへ駆けて行ったけど、何かあったの?」
 皆好き勝手喋っていて答える暇もないけれど、それだけびっくりしていると言うことなんだろう。でもぼくもリアもソフィーがどうして逃げ出したのかは分からない。ただでさえ温厚なリアが、ぼくたちを傷付けるようなことはしないから。
 リアは隣ですりむいたらしい膝に手を当てながら、
「ねえアルフ、ソフィーはどうしちゃったの?」
 ぼくの顔を覗き込むように言った。その悲しげな深い青の瞳にぼくの姿が映っている。自分では分からなかったけれど、とても怖い顔をしていた。自分が自分じゃないみたいな。
 これは、言わなくちゃいけないんだ。
「ソフィーは、悪しきもの、になっているんだ……」
 唇が震えてうまく喋れなかったけれど、悪しきもの、と言う言葉を聞き取った皆はすぐさま怯えた表情に変わり、顔を見合わせた。信じがたいかもしれないけれど、ぼくははっきりと見たんだ。
 先程ぼくたちが追い出されたソフィーの厩舎を見る。去年あげたばっかりの毛布がぼろぼろになっているのが見えた。
「ソフィーの目が赤くなっていたんだよ」
 そう言うと、リアが血相を変えてぼくに飛びかかってきた。その勢いで横にばたっと倒れたのに、リアは地面にぼくを押し付けるように乗っかってくる。
「そんなの嘘よ! だって、ここは歌風の龍樹なのよ? 悪意に侵されるなんてありえないわ!」
「ぼくだって信じられないけれど、ソフィーの目は真っ赤だったんだよ!」
 本当のことを言っているのに、リアはまるで信じてくれない。でもリアはぼくを遥かに上回る大きな声を出して、怒鳴りつけてきた。
「嘘よ嘘! 見間違いなんだから!」
 ぺし、とぼくの頬をリアが叩く。リアの気持ちが、痛い程伝わってきた。
「嘘なんかついてない!」
「嘘!」
「じゃあソフィーは何で逃げ出したって言うんだよ!」
 仕返しをするようにリアの体を押すと、リアはいとも簡単にしりもちをついてしまった。一瞬キュッとつぶった目がそっと開いてぼくに向けられる。青い目が、涙のように揺れていた。
「あっ」
 リアを突き飛ばすなんて、したことがなかったのに。駆け寄ってリアの手を引いてあげると、
「それは嘘ではない」
 厩舎長のバッカスさんが前のほうからゆっくりと歩いてきた。髪の毛はみんな一緒で真っ黒だけど、地面に付いちゃいそうなくらい長い髭はバッカスさんだけのものだ。
「厩舎長? どういうことですか?」
 髪を後ろでひとまとめにしたチェスターさんが聞くと、
「昨日のことじゃ。ソフィーがここから少し離れたところで、何やら大きな蛇と争っていたのは」
 バッカスさんが深刻そうな顔をしてつぶやく。
 大きな蛇。
 ぼくやリア――ウタカゼたちは見たことがある。眩しいくらいに紫色をした体と、さっきのソフィーみたいに真っ赤な目と舌を持っているんだっけ。思い出すだけでもぞっとする。
「大きな蛇と?」
 ぼくがそんなことを考えていると、リアが身を乗り出して言った。周りの皆も気になるみたいで、バッカスさんを囲むように座る。
 するとバッカスさんは真ん中に立って、ソフィーの厩舎の向こうを指差した。
「蛇は悪意の精霊のじゃろう。きっとソフィーはみんなを守ろうとしたんじゃ。それで悪しきものになってしまった……そう言うことじゃな」
 バッカスさんはさらに悲しそうな顔をする。リアもぼくも、皆も同じだ。ソフィーが悪意の精霊と争っていたなんて誰も知らなかったけれど、そんな誰も知らないところでソフィーはぼくたちを守ろうとしてくれていたんだ。悲しくならないわけがない。
 そうして皆が言葉に詰まらせていると、
「ソフィーを助けに行くのじゃ」
 真剣な瞳で僕達を見て、厩舎長が言った。
 リアも厩舎で働く人達も目をぱちくりとさせる。そうしてしばらくお互いの顔を見ていたけれど、迷っている暇なんかない。
「僕達が行かなくちゃいけないんだ……」
 自然な気持ちが言葉になって現れる。
「……そうよ、私達しかいないんだわ」
 リアも一緒になってそう言ってくれた。僕はこくこくと頷いて、厩舎長をまっすぐ見る。
 厩舎長は僕とリアの目を覗き込むようにじーっと見つめて、やがてふっと後ろを向いた。
 すると厩舎長の後ろからまた一人、僕達は何度も会っているウタカゼの師、クライドさんが歩いてきた。クライドさんは僕やリアよりも背が高くて、歌風の龍樹と同じ深い緑色の髪が特徴だ。今日もクライドさんの髪は龍樹と一緒に風に揺れている。
 そしてクライドさんは厩舎長にソフィーのことを聞いてひとつ頷くと、
「ソフィーのことはお前達に託そう」
 僕とリアの前に立ってそう言った。
「ソフィーはコビット族……中でもウタカゼにはよく懐いている。その中でもアルフとリア、二人には特にな。……だから、お前達がソフィーを助けてあげるんだ」
 クライドさんがウタカゼと言った時、龍樹がさわさわと音を立てて葉を揺らした。
 ウタカゼは悪意から生き物たちを守る人、いわゆる勇者だ。この龍樹にもたくさんのウタカゼがいて、その特徴である鮮やかな髪と瞳が龍樹の枝葉を色とりどりの花のように彩っている。
 僕もその一人で、こうやってクライドさんに使命を受けた記憶もいっぱいある。それはリアも一緒だし、ソフィーを守りたい気持ちは一緒だ。
 しばらくしてリアが僕の顔を見る。澄んだ青い瞳と目が合って、こくりと頷いた。
「僕達が、ソフィーを助けに行きます」

「……それで、出て来たのはいいけど」
「ソフィーはどこよ!」
「そんな理不尽な……」
 リアはずっとイライラしているみたいで、金属の鎧をがしゃがしゃと鳴らしながらぼくの後を歩いていた。焦る気持ちはよく分かるけど、焦ってはいけない。ぼくも同じ鎧に身を包み、やっぱり同じようにがしゃがしゃと音を立てながら歩いていた。
「足跡があるからこっちで間違いないと思うんだけどなあ」
「ほんとにリアの足跡なの? このあたりはウサギなんてたくさんいるじゃない」
 相変わらずガシャガシャと鎧を鳴らしながら、リアは文句を言っている。それなら自分で探しなよ、と言いかけた。でもそんなことを言ったらまた怒られてしまうだろう。もう怒られているようなものだけれど。
「ソフィー、少し前に右足を怪我したでしょ? だから歩き方がちょっと変わってるんだよ」
 言いながら地面を指差す。その足跡は確かにウサギのものだけれど、均等には並んでいない。つまりこれが怪我をしているソフィーの足跡だと言うことだ。
「ソフィーとは限らないじゃないの」
 焦っているわりに冷静なのは、間違いを犯したくないから。早くソフィーを見付けてあげたいからだろう。
 そんなリアの言葉を聞いていると、前方にノコギリソウのお花畑が見えてきた。ぼくたちの三倍はあるのでこの向こうに何があるかは見えないが、記憶では川があるはずだ。ノコギリソウを支える大地にもソフィーの足跡は続いている。
「行くよ、リア」
 と言って歩き出すと、
「もー、ほんとにこっちでいいの?」
 未だに疑ってるらしいリアの声が後ろから聞こえた。
「だって足跡続いてるもん」
「ソフィーは怪我してるんでしょ? こんな短い時間でノコギリソウを超えるところまで行けるのかな……」
 ソフィーの言うことは尤もだけれど、姿を見ない限りは合っているか間違っているかは分からない。
 リアの文句を背中に浴びながら歩いていくと、やがてノコギリソウのお花畑が途絶えた。代わりに現れたのは長く長く流れている川と、
「ソフィー!」
 低くうなっているソフィーだった。真っ白だった毛は汚れて、瞳はさらに赤みを増しているように見える。何より違うのは、ぼくたちを見つめるその視線が、酷く痛いと言うことだった。
 嫌々付いて来ていたリアもソフィーを見るなり飛び付こうと駆けていった。
「リア!」
 だめだ。ソフィーの目がぎろりと光ってリアを睨み付けている。リアはそれに気が付いていない、もたもたと走っていた。
「リア!」
 もう一度リアを呼ぶ。すると、ソフィーが大きな耳を天に向かってヒュッと立てた。かと思えば後ろ足で地面を大きく蹴って高く飛び上がった。ソフィーの作り出す濃い影がリアを覆い隠す。
「リアってば!」
 本能的に駆け出していた足がリアの元へ辿り着き、ほとんど突き飛ばす状態でリアをソフィーから遠ざけた。ずん、と言う地響きがして慌てて振り向くと、ほんの一瞬前までリアがいたところにソフィーが身構えていた。いつもなら愛らしく見えるひくひくした鼻も、今はぼくたちを探る道具でしかないのかもしれない。
 ぼくは背中から曲刀を引き抜き、両手でまっすぐ構えた。まっすぐ、まっすぐ。
「アルフ……」
 リアが震えた声を出す。振り向いたら何が起きるか分からないから見ることはできないけれど、今のリアは僕と同じように曲刀を構えることはできないだろう。経験は豊富でも、身近な存在が悪しきものになるのは初めてだから。
 僕しかいない。リアを、ソフィーを、コビット族を守ることができるのは。
「大丈夫。必ずソフィーは助けるから」
 言い切ってから強く地面を蹴ると、ソフィーもぼくに向かって飛び出した。でも切りつけることはできない。ただソフィーが噛み付いてくるのを受け流すだけ。
 手に走る重い衝撃に曲刀を手放しそうになりながらも何とか耐えていると、ソフィーがぴたりと立ち止まった。
 風が吹くことを忘れたようにふっと止まり、静寂が舞い降りる。リアは相変わらず僕の後ろで震えているらしく、小さな嗚咽が聞こえた。正面のソフィーはぶるぶると体を震わせていた。
 ぼくは大きく息を吸い込む。そうして生まれた風に乗るように足を踏み出すと、
「ソフィー!」
 背中に背負っていた鞘を放り投げた。それは見事ソフィーの喉元を直撃、次いで曲刀の柄でソフィーの前足を叩く。
 するとソフィーの体はドッと大きな音を立てて地面に倒れ込んだ。
「ソフィー……ソフィー!」
 突然横から現れたリアはソフィーの体に飛び込み、その豊かな羽毛に顔をうずめて泣いていた。嬉しいのは当然だろうけれど、まだ終わりじゃあない。
「このまま目を覚ましてくれるかな……」
 悪しきものは悪意が失われると気絶する。まだあまり時間が経っていないせいかすぐに気絶してしまったけれど、このまま絶望してしまえばソフィーは命を落としてしまうのだ。冷たい言葉だと分かってはいる。それでも、それを言わないわけにもいかない。
 リアはまだぐずっているようだけれど、涙をぬぐい、すくっと立ち上がった。金の髪がどこかから運ばれてきた風でふわふわと揺れている。
「一緒に帰るんだから……」
 そう言うと、リアは静かに歌い始めた。その瞬間すべての音がリアに支配されたように、この空間一帯が歌声で包まれる。川のせせらぎも、ノコギリソウが揺れる音も、ソフィーのかすかな息遣いも、ぼくの鼓動も、今はすべてリアのものだ。
 両手を広げて歌うリアは、風を全身に受けて歌い続けた。シャボン玉に閉じ込められたようにぼくの中で歌声が反響して、うっとりと聞き惚れる。
 そうしていると、ソフィーが僅かに身を揺らした。
「ソフィー……?」
 それに気が付いたリアははたと歌うのをやめ、その顔を覗き込む。ぼくも慌てて駆け寄って顔を見ると、ソフィーがゆっくりと目を開いた。それはもうあの真っ赤なものじゃなくて、ぼくと同じ、淡いピンク色をしている。
「ソフィー!」
 まだ虚ろなソフィーに、リアはもう一度抱きついた。突然抱きつかれたソフィーはきゅぷ、と鳴いて戸惑っていたけれど、ぼくもそうせずにはいられなくて、ソフィーは二回、きゅぷ、と鳴いた。

「ソフィー、ここ掘ってー」
 リアが言うと、ソフィーは嬉しそうに畑を掘り出した。掘り返した土がみるみるうちにソフィーを茶色く染めていき、最早真っ白なウサギだと言うのが嘘だと言うくらい真っ茶色になる。
「うわ、だめだよリア、昨日洗ってあげたばっかりなのに」
「ソフィーは土を掘るのが好きなんだもん、やらせてあげないとね」
 リアは平然と言い、ソフィーは楽しそうに畑を耕していた。そうしたらもう文句は言えないけれど、綺麗にしてあげるのはぼくたちなのだ。
 思わずため息を漏らすと、
「アルフ」
 バッカスさんが畑の外から声をかけてきた。慌ててクワを置いて駆け寄ると、
「実に幸せそうじゃのう」
 リアとソフィーを眺めながら言う。振り向いてみると、確かにそこには一枚の絵にしたいくらい幸せそうな光景が広がっていた。
「やっぱり、ソフィーがいないと……」
 そう言ってみたけれど、何だか照れくさい。
「なんじゃ?」
 そんなぼくの後ろ姿を見つめていたらしいバッカスさんが声をかけてくる。頬をぽりぽり掻きながら振り向いてみると、バッカスさんはとっても穏やかな表情をしていた。
 それを見ると、何だか恥ずかしいって感情はどこかへ行ってしまって。
「ソフィーがいると、幸せです」
 にっこり笑ってそう言えた。
 すると、ソフィーを包むような風がどこかから吹いてきた。それは歌風の龍樹を大きく揺らして、リアの歌声みたいにさらさらと綺麗な音を奏でる。
 ソフィーが戻ってきたんだ。その嬉しさが急に込み上げてきて、リアも僕もにっこりと笑っていた。

〈おしまい〉